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ワインの知識

 ワインのビジネススタイル ワインと評論家―その2―

とても逆説的な言い方なのですが、特定のワインが評論家や雑誌に取り上げられるのは当たり前のことなのです。取材に協力してサンプルをおくっているのですから。それにもかかわらず、ひどく不味いからと言って掲載を見送ることや「不味くてダメだ。」など書くはずはありません(笑)。協力に対して掲載するのが仁義ですから。

『数多く、しかも高く』売りたい生産者(インポーター)の欲求と『より美味しくてお値打ち』のワインを飲みたい消費者の欲求をつなぐのが評論家の仕事です。いわゆる周旋屋さんに近いですかね。千みっつとは言いませんが話半分くらいに想わないと我々は足元をすくわれます。

農産物であるワインは単なる商品作物ではなく、それ自体に多面的な価値を持つゆえこのようなビジネススタイルが成り立っているのです。

ローヌにDという生産者がいます。彼はもともと画家であり、ワイン造りもその延長にあるような生産者です。そんな彼の元にロバート・パーカーからサンプル供出の依頼があったそうです。彼は「数が少ないのでサンプルは出せません。市場でご購入下さい。」と断ったそうです。芸術家に対して「あなたの絵が売れるように宣伝してあげるから、絵をこちらに送りなさい。」と手紙で言われたらその芸術家は傷つきますよね(笑)。

ですから彼のワインはパーカーの著述には今のところ載っていません。ちなみに、ヒュー・ジョンソンは「注目すべき生産者」として彼の名前をあげていました。

シャンパーニュのあるレコルタン・マニュピュラントは「ギイ・ア・シェット誌」に掲載して貰うため自社のシャンパンのラインナップすべてを送ったところ、そのすべてが掲載されてしまい一日中電話が鳴り止まなかったそうです。それ以来彼は一つのアイテムだけサンプルを送ることにしたそうです。「そりゃ売れるのは嬉しいけど、あまり売れすぎても困るんだよね。だって畑は限られてるからワインもそんなにたくさんないからね。」と語っていました。自分を知っていますね。

地元および国内でもともと評価の高い生産者はむやみな量産が品質の低下の原因になることを知っています。また、ブームに乗ってむやみに高く売るようなことをすればブームの後相手にされないことも知っています。継続的な長い取り引きができる客を大事にすることが自身を守ることになるのを知っています。でなければ動乱のヨーロッパで何百年も続けられません。

本当に美味しいワインは黙ってても売れますから、むやみな宣伝をする必要はありません。我々がワインを仕入れるに際して一番信頼できる資料は(テイスティングできない場合)輸入価格なのです。例えばあるシャトーのリストにはそのシャトーのヴィンテージ別の価格が載っています。その差が購入決定の大きな資料となります。もちろんそのヴィンテージとそれ以前のヴィンテージの味の記憶がないとダメですが。雑誌や評論家の意見は基本的に信用しません。

話がそれましたが、日本のとある雑誌で「安くて美味しいワインのナンバー1を捜せ!」というような企画特集がありました。雑誌社はインポーターにその企画の意図を伝え、サンプルの無料提供の協力を打診しました。そして、見事1位に決定したワインがたまたま当店で扱っていたものでした。私はそのインポーターさんの担当者に電話をしました。

私曰く

「すごいじゃん!良かったね。でもさ、あのネゴシアンの同じ価格帯ではもっと美味しいMがあるのになんでCが優勝したの?」

担当者曰く

「いやぁー。ありがとうございます。実はMは美味しいので黙ってても売れますから、どうにかCを売りたい意向がありまして、サンプルとしてはCしか出さなかったんです。まあCが賞に引っ掛かればラッキーというところなんですよ。」

うーん。ワインって…

妙に納得させられました。

今日本ではマスメディアや雑誌などで多くのワイン特集が組まれています。こんななか評論家やワインジャーナリストがかなり貢献する場も多くなったと思います。日本国内において需要が伸びている酒類はワインだけですから売る側も力がはいります。少なくても彼等は盛り上げ役として大活躍しています。ただし、ここで勘違いしてはいけないのですが、実際にワイン需要を押し上げているのは消費者であり、飲み手であることです。飲み手の潜在的な欲求が高まり、それが表出しただけなのです。彼らがその流をつくったのではなく、流に乗っているだけなのです。(もちろん我々も含めてです。)

私達も決して中立ではありません。自分の気にいったワイン(味も値段も)を仕入れてお客様に売っている訳ですから。判断を誤ると仕入れたワインはただのゴミになるリスクと背中合わせなのです。お客様から「この間のワイン美味しかったよ。」と言って頂くことが生業なのです。

少なくとも自分のふんどしで相撲は取っています(笑)。

ワインビジネスといってもいろいろなスタイルがあるということです。

20年前には考えられなかったことです。

15、6年前にあるワイン雑誌のティスティングのコメンテーターとして参加したことがありました。たしかシャブリの特集でした。もちろんティスティングしたワインはインポーターやメーカーからの提供ワインでしたから美味しいものがほとんどありませんでしたし、またバカ高いものばかりでした。その旨を発言したところ「そんなこと言ったって、あなただってシャブリが売れなくなったら困るでしょう。」と別のコメンテーターに注意されたことがありました。その雑誌の企画を壊すことになりますから分からない訳ではないのですが、当時は行った私がバカだったと落ち込みました。でも、いま日本でこれほどワインが飲まれるようになりましたから、大きな声で言えるようになりました。

「シャブリの代わりを捜せばいいだけですね。」
 
「べつにシャブリなんか売れなくても他があるからいいのです。」

私はとても嬉しいです。(笑)

シャブリが売れなくなってもワインが売れなくなることはありませんから。

また話がとんでしまいましたが、いま100リットル9000円で取り引きされるワインと1本数10万円で取り引きされるワインがあります。ただし両者とも同じ大地に根差したものです。ここにワインの人を魅了する真実があると思います。ゴミのような値段で取り引きされるものも、高級ブランドのごとく取り引きされるものも、同じ農産物であり、その価値を決めているのは飲み手なのです。

単に味の差以上のものがそこにはあります。

ワインがワインたるところなのです。

お客様に売ったワインが価格以上の味と褒められるのが私達のビジネススタイルなのです。

社団法人 日本ソムリエ協会認定 ソムリエ
岡本 利秋

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